武蔵野レコードの青木です。今年もよろしくお願いします。
これから私が2019年に手に入れたレコードを振り返り、「これはたいへん良かった」というものを紹介していきます。
2019年は1枚1枚をじっくりと聴く機会の多い年でした。「安いから」「いずれ聴くかもしれないから」「何か天気良いから」といったあやふやな理由でレコードを購入するのをできるだけ控え、真摯に向き合う価値が確実にあるであろう(と思える)ものだけに一定程度の支出を許した年でした。
そんな保守的な購買方針にもかかわらず、思ってもみなかった素晴らしい出会いがいくつも待ち受けていたのですから、やはり世界は広く、奥深いものです。
The Kinks “Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)”
昨年は春先から夏場まで集中的にキンクスばかり聴いていた時期があり、こちらもその1枚。アルバムをA/B面通して聴く、という文化から遠ざかってずいぶん経ちますが、このアルバムは逆に通して聴くことを無理なく強いる物凄い磁力と吸引力の持ち主。正直音圧はいまひとつですが、笑ってしまうくらい目まぐるしい展開のおかげで気になりません。ふと気が付けばB面ラスト、ということが少なからずありました。ステレオの特性を生かした左右の音の振り分けもはっきりしてて楽しい。もっと知られなきゃいけないアルバムです。
Todd Rungdren “Runt”
プロモ盤です。店頭で「ほー、プロモか、珍しい」と手に取って試聴して一発KOという、理想的な出会いでした。ある時期までのアナログレコードが持っていた、音楽再生メディアとしての特性が最大限に発揮された音だと思います。圧倒的な音圧はもちろんのこと、振幅の自在さ、果てしない奥行き、耳への当たりの柔らかさ…アナログの中のアナログの音と思います。
Jackie Wilson “This Love Is Real”
これも試聴→その場でノックアウトというコース。伸びやかで軽やかなシカゴソウルです。かなりのベテランシンガーですが意外にもJBの影響も聞き取れたりで、そのあたりも面白い。
このブランズウィックはずば抜けて音が良いことで信頼の厚い名門レーベルですが、これまでシャイライツしか知らなかった私は本作をきっかけに、ブランズウィックからリリースされた7インチシングルを少しずつ集め始めました。いずれここで紹介する日が来ると思います。
Gabor Szabo “Spellbinder”
某イベント参加のために久しぶりに訪れた下北沢。イベント開始前に老舗レコード店フラッシュ・ディスク・ランチに立ち寄りました。めぼしい棚をあらかた掘り終わってのち、普段はまず近寄らないジャズ棚を冷やかしていたら目に飛び込んできたのがこちら、ガボール・ザボ「スペルバインダー」USオリジナルのモノラル。
おなじみの店主・椿さんによる手書きポップには「盤質良くないけど音圧すんごいから大丈夫」とあって、店内でかけてもらったところ確かにだいぶプチプチいうもののモノラルの太くまっすぐな音がぐんぐん伸びて心地良く、即買い。ハンガリアンのギブソン使いでジャケのイラストも本人のもの。艶っぽい音色が後を引きます。サンタナ「天の守護神」に収録された「ジプシー・クイーン」はこのアルバムのバージョンがオリジナルだそう。
Traffic “The Low Spark of High Heeled Boys”
フラッシュで出会ったもう1枚がこちら、武蔵野レコードでの人気はいまひとつながら個人的には最愛のバンドのひとつ、トラフィックの通算6枚目にあたる「ロウ・スパーク・オブ・ハイヒールド・ボーイズ」のジャーマンオリジナル。
このアルバムはUKオリジナル、USオリジナル(うっかりダブって買ったので2枚あります)とすでに3枚持ってましたが、「音すごく良いです」との手書きポップに促されて買ってみたらこれが大当たり。
USやUKのようなそれぞれの国柄が反映された独特の音とはちがい、バランスの取れた、万人にとって聴きやすい、といって優等生的な大人しさに留まるでなく、押し出しの強さとパンチ力はかなりのものです。足は速いし勉強もできる、人当たりもいいから男子にも女子にもモテて、かつ腕っぷしの強さでヤンキーからも一目置かれる…中高時代、学年にひとりは必ずそんな奴がいたものだけど、このジャーマンオリジナルはそんな音です。
アルバム最後は“Rainmaker”というブリティッシュフォークな曲で、終わり近く、前触れなくそれまでと曲調がガラッと一変する瞬間があって何度聴いてもその度に背筋に電流とかが流れたりするのですが、武蔵野レコードの定例会にこの類の曲を皆で持ち寄って聴き比べてみたいと夢想してます。
ここまでが旧譜=中古で入手したものです。
≪おまけ≫
Los Bravos “Bring A Little Lovin’”/ Paul Revere &TheRaiders “Good Thing”
昨年封切られたクエンティン・タランティーノ監督最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は生涯ベスト級の内容で(とか言ってたらオスカーの前哨戦、ゴールデングローブでベストピクチャー受賞!)、劇場で3回観ても飽き足らずほとんど自動的にポチッた北米盤4K UHDとBlu-rayのコンボに付録でついてきた、サントラからのシングルカット、7インチブルーバイナル。
両面とも見たことも聞いたこともない曲およびアーティストですが(映画のどこでかかってたかはもちろん即答できます)、それ以前にこれ、新品のはずなのに音飛びしまくりの困った代物で、海外盤の新譜で何度か同じことが過去にありました…おかげで大晦日の夜は、昨年とは打って変わって退屈な紅白歌合戦を横目に見ながら、盤面に群生した大小様々な突起を人差し指の爪で慎重に削り落とす作業に費やされることになりました。
今年も昨年に引き続き、じっくり行きたいと思います。